「笑門来福――笑う門には福来る」とは中国の故事です。
古代ギリシアの医聖ヒポクラテスは「人は誰でも100人の名医を持つ」言っています。それは体内に自ら備わる“治す力”です。「医師の役割は、これを補助することでしかない」と諭しています。
では、この奇跡を自然治癒力を最大に引き出す、最も簡単なことは「笑う」ことなのです。
吉本興業のお笑い舞台を19人のガン患者に見せて大爆笑させ、免疫細胞であるNK(ナチュラル・キラー)細胞の変化を観察した伊丹仁郎医師の画期的実験では、ほとんどのガン患者でNK細胞が増強する。そのパイオニア的研究に続き、いくつもの研究が「笑い」の抗がん作用を証明しています。
「笑いで85%の人にNK活性が増加」「最大でNK細胞が6~7倍増」。
「笑い」と「リラックス」で副交感神経が活性化し、興奮を鎮める神経ホルモンが分泌され、体内のガン細胞を攻撃するリンパ球が増えるのです。
「笑う」と脳から快感物質βーエンドルフィンが大量に分泌されます。それがNK細胞を大量増殖、活性化させる。
「笑い」はNK細胞の栄養源。これが「笑い」がガンを治す仕組みです
ストレス解消も同じ。「笑う」とストレス物質コルチゾールが分解され、尿中に排泄されてしいます。「笑う」とスッキリする。
一方で免疫細胞が受け取る酸素が増え、NK細胞などを活性化させ生命力がアップします。
「笑い」はアトピーもめざましく改善する。
「笑った」アトピー性皮膚炎患者の9割が治る。「笑わない」患者は一割しか治らない。
「アトピー患者はわらない」と言う。これはガン患者にも通じるもの。
「笑い」はリウマチにも著効があることが立証されている。
リウマチの薬より、笑った方がよりよい改善効果が出た。
筑波大学の研究では、食後20分笑っただけで血糖値上昇が約4割も抑えられる。驚くべき結果。「笑い」はインスリンなど血糖降下剤より、はるかに安全で、はるかに効果的で、はるかに“安上がり”な妙薬だった。
笑うときの呼吸は、深呼吸により大量の酸素を取り込み、腹筋などの筋肉の運動効果もある。見る間に血圧や脈拍も正常化する。身体のあらゆる数値が正常値に近づいていく。
「笑い」で脳もα波が出て究極のリラックス状態に導かれる。
その他、脳機能(前頭葉)を活性化する。笑うと「頭もよくなる」のだ。
山形大学医学部の、世界初の「笑いと寿命」の実験です。
同学部は、2019年6月25日、笑う頻度と死亡や病気のリスクを分析した調査を発表した。
この研究対象は、山形市など7市に住む40代以上の一般住民、合計1万7152(平均年齢62・8歳)。これら中高年を対象に、亡くなったり、病気になったりした事例を分析した。
「ほとんど笑わない人」は「良く笑う人」に比べて、死亡率は2倍たかった。
「笑わない人」は2倍早死にする――それが、世界で初めて医学的に証明されたのです。
面白いのは「たまに笑う」人でも、死亡率は「笑わない」人の半分であること。
ゲラゲラ笑いでなく、クスクス笑いでも、寿命を2倍に伸ばすのです。
さらに、「笑わない」と心筋梗塞や脳卒中など心血管疾患の発症率も高かった。
「笑わない」人の心血管疾患発症リスクは、約1・6倍だった。
いつも苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
そんな人には、いろんな病気が寄って来そうですね。
これまでの「笑い」に関する医学研究で、「食後血糖値が上がりにくい」「血管が柔らかくなる」「免疫力が上がる」などの医学的効用が解明されている。
この山形大報告は、さらに「死亡率半減」「寿命を倍増」という驚きの事実を解明した。
世界初「笑いと長寿」研究は、英文科学誌にも掲載され、海外でも大反響を呼んでいる。
「……調査でも、笑うことが少ない方の傾向として、男性、喫煙と飲酒の習慣がある、あまり運動しない、加えて一人暮らし」
孤独な男性高齢者のイメージが目に浮かぶ。
「……これに対して、一人暮らしであっても、女性の皆さんは、日頃から近所づきあいがあって会話をする機会が多いため、笑う頻度が高いことでしょう」
ここでも、人と人との付き合い、ふれあいが、いかに大切かを感じます。
「……日頃笑う習慣がない方は、まずはテレビで落語や漫才を見て笑うだけでも結構です。そして、外へ出て誰かと会話をすれば、さらに笑う機会が増えるかもしれません。副作用の一切ない『笑い』という薬を、ぜひ心疾患予防にお役立てください」(研究チーム櫻田香教授)
「……ポジティブな精神的な因子が長寿、心血管病リスク、その他身体的障害のリスクの減少に関連するとの報告が増加」(山形大研究チーム)
(1)修道女の研究
カトリック修道女180名を対象に、20代修道女の自筆日記の内容と、その後の寿命を追跡調査したところ、「人生に前向きの内容の日記を書いていた修道女ほど、長生きしていた」(『Pers Soc Psychol』2001 may:80(5):80413)
(2)ジョージア百寿者研究
米ジョージア州在住の100歳以上の老人にインタビュー。その性格、生き方などを分析し、ポジティブな考え方と実践が長寿をもたらしていることを解析。2006年に学術誌に論文が発表されている。
(3)東京百寿者研究
対象は東京在住100歳超の百寿者を対象とした調査で、2006年、2014年に研究論文が発表されている。
その結果、これら長寿者に共通するのは「人生に対する前向きな態度と、何事にも感動する感性であった」さらに「外交的かつ楽天的な傾向がみられた」。
「笑わない」人は認知症リスク3・6倍。
福島医科大学の結論。
毎日、声を出して笑う人は、本当に陽気な人です。
「気」つまり、その人の「生命波動エネルギー」が高いのです。
だから正反対の陰気な人に比べて、認知症リスクは4分の1以下。
ここで注目して欲しいのは、「あまり笑わない」人です。
「笑うのは週一程度」の人でも、認知症リスクは「あまり笑わない」人の半分以下……。つまり、クスリ笑いでも苦笑いでも、笑ったが勝ち、もうけもの。
いつも口をへの字にしている。周囲が笑っても、フンとさらに不機嫌の度合いが増す。
つまり、偏屈というヤツで、とりつくシマもない。冗談も通じなければ、洒落も判らない。
こういう人に「笑うと寿命が2倍伸びるよ」「ボケのリスクは約4分の1」と言っても、「ヘン! おかしくもねぇのに笑えるかい!」啖呵を切る。
しかし、山形大の研究が教えてくれます。
「少しの笑いグセ」でも驚くほど効果がある、ということです。
苦虫を嚙み潰している頑固オヤジでも、「ときどき笑う」だけで、認知症はめざましく防げるのです。
女性は、「ほぼ毎日笑う」が半数以上で、「月1~3回」「ほとんど笑わない」合わせても半分です。女性は平均寿命でも男性より長生きですが、山形大報告を見ても、その大きな理由に「良く笑う」ことがあったのです。
Aさん(61歳男性)は、前立腺ガンと診断、別の病院でも同様で、「全摘手術」「放射線治療」「ホルモン療法」……のいずれかを選択するように言われた。
「……もし転移してたら、死ぬかも」と弱音をはいた時、妻は「何を情けないことを言ってるの。自分が死ぬと思ったら、本当にそうなるわよ。あなたを決して死なせない。絶対に治るんだから」と玄関の冷たい板間で、抱き合って泣いた。
そして、医師の勧めた療法をすべて断った。かわりに専念したのが自助療法である。
「……複式呼吸をしながら、『ありがとう』を繰り返し、妻とスイスの高原をトレッキングしているイメージを鮮明に思い描きました。そして、前立腺ガンがなくっている状態を思い描くようにしました。その後、4回も39℃を越える発熱が続きましたが、解熱剤なども使わず、治癒反応として静かに過ごしました」
そして、1年後……。
Aさんは、病院の主治医から呼び出され、妻と二人で次のような説明を受けた。
「……私の頭の中は混乱しています。何が起きたのか理解できません。とにかく、ガンがMRIでも消え、PSAマーカーも4以下です。こんな経験は、はじめてです。なにか“魔法の薬”でも飲んだ、としか言いようがありません」
Aさんの前向きの心と感謝の思いにより、ガンは静かに消えて行ったのです(『笑って長生き』昇幹夫)
笑いの免疫学
創造的な人生を歩む
ノーマン・カズンズ――「笑い医療」のパイオニア
ノーマン・カズンズは、1915年、アメリカ生まれ。彼自身が、大変な難病に冒され、医師から不治と死の宣告を受け、一時は絶望の淵で苦しんだ体験を持っている。その彼を“不治の難病”から救ったものが「笑い」だった。
彼のもともとの職業は雑誌編集者だった。『サンデー・レビュー』という書評雑誌の編集長として、同誌を全米有数の総合評論雑誌に育て上げた辣腕ジャーナリストでもあった。第二次大戦中は反戦平和を唱え、戦後はケネディ大統領とソ連のフルシチョフ首相をつなぐパイプ役として奔走。日本とも所縁がある。広島、長崎で原爆に被爆した若い女性25人をアメリカに招き後遺症のケロイド治療を受けさせるために心血を注いだ。日本でもその無償の行為を称え「原爆乙女の父」と語り継いでいる。
目に浮かぶのは戦争の憎しみ、民族を超えた平和を愛する純粋なヒューマニストの横顔だ。
50歳の時、旧ソ連での仕事から帰国したカズンズは、異様な発熱と体の痛みに襲われた。たちまち首、腕、手指が動かなくなった。血沈は115と危篤状態と同じレベルにまで悪化。親友であった医者にかかると、重く下された病名は「脊髄炎」……。この病気は膠原病の一種で、一度罹ると「500人に1人しか治らない」という恐怖の難病だった。ついに寝返りどころか口も開けない重体に。専門医は「こんな全身症状からの回復例は見たことがない」と断言。まさに、それは現代医学では不治の病であり、“死の宣告”に他ならない。彼は悲嘆のどん底に落ち込んでしまう。
絶望の暗闇にあった彼の心にふと一冊の本の名が浮かんだ。
『生命のストレス』……著書は、ストレス学説で有名なハンス・セリエ博士。「そうだ! 10年前に読んだぞ」。そこでは、こう述べていた。
「――不快な気持ち、マイナス感情を抱くことは、心身ともに悪影響を及ぼす――」
なるほど、そうか。
ロシア旅行中にディーゼルやジェット機排ガスに酷くやられたことが発病原因と気づいた。
「副腎が疲弊し、身体の抵抗力が低下したからだ」。ならば「自分の副腎をもう一度、正しく機能さえなければならない」セリエは「副腎の疲労が、欲求不満や抑え付けた怒りなどのような情緒的緊張によって起こり得る」と明快に示していた。その著は「……不快なネガティブな情緒が人体の化学的作用にネガティブな効果を及ぼす」と記述していた。
さらにヒントはウォルター・B・キャノンが名著『身体の智慧』で存在を指摘した「ホメオスタシス」(生体恒常性)の力だ。
「自分の内分泌系……特に副腎……の完全な機能回復が重症の関節炎と戦うための絶対条件だ」
セリエのストレス学説は光明となった。
「では……その逆を行ったらどうなるだろう?」。カズンズはふと考えた。
「――快適な気持ち、プラス感情を抱けば、心身ともに好影響を及ぼす――のでは!」
つまり「ネガティブな情緒が肉体のネガティブな化学反応を引き起こす。なら、積極的な情緒は、積極的な化学反応を引き起こすのではないか?」。
「愛や、希望、信仰や、笑いや、生への意欲、が治療的価値を持つこともあり得るのだろうか」(『笑いと治癒力』)
その前に……とカズンズは気づいた。病院のベットの上で、彼は薬漬けだった。
鎮痛剤、睡眠薬、抗炎症剤……などなど。彼は、当時のほとんどの薬に対して過敏症だった。
にもかかわらず、一日の投与量、なんとアスピリン26錠、抗炎症剤12錠……合計38錠! 恐怖というか戦慄の薬漬け。全身にジンマシンができ「何百匹の赤蟻に皮膚を噛まれている」ように感じたのも当然。西洋医学は昔も今も、まったく変わっていない。
「私の身体が鎮痛剤の薬漬けになり、その中毒を起こしている限り、(体内の)“積極的”な化学反応を期待できるはずがなかった」
“前向き”療法に入る前に、彼はこれら薬物(毒物)をスッパリやめた。
「オーケー、レッツ・ゴー!」。平和運動家としての行動力が、ここでも役に立った。
「快適な気持ち、プラス感情」を持つのにベストの“クスリ”があった、そうさ、「お笑い」だ! 「まず手始めに滑稽な映画がよかろう」。
それらカズンズが取った行動は、奇想天外。まるで映画の一場面だ。なんと、彼は、自分の病室に映写機を持ち込んで、喜劇映画を観ることに没頭したのである。暗くした彼の病室からは映写機の回る音と、彼の腹の底からの大笑いが響いて来た。友人の一人で、どっきりカメラ番組プロデューサーは“傑作”フィルムを送ってくれた。さらに喜劇『マルクス兄弟』……などなど。
西洋医学では、誰一人思いつかなかった記念すべき「笑い療法」が、こうして始まった。「効果はてきめんだった……」。彼は著書に記している。
「有難いことに、10分間、腹を抱えて笑うと、少なくとも2時間は痛みを感じずに眠れる。という“効能”があった。
まさに“笑いの鎮痛効果”を彼は体験したのだ。
「……鎮痛効果が薄らいてくると、また映写機のスイッチを入れた。笑いに満たされると、しばらく痛みを感じずにいられることが多かった」
さらに看護婦は、色々集めてきたユーモア本を、枕元で読んでくれた。
彼は吹き出し、体をゆすって大笑いした。
ただ一つ、「この“笑い療法”には、マイナスの副作用があった。それは、他の患者たちの邪魔になることだった」。そこで、彼は病院を出てホテルに引っ越した。
「……有難いことに経費が3分の1ばかりに減った。もう体を洗うとか、食事だとか、投薬だとか、ベッドのシーツの取り換えだとか、検査だとか、病院のインターンの診察だとか言って、叩き起こされる心配がなくなった」とカズンズは大満足している。
これは現代の医療にも通じる激烈な皮肉である。
「のんびり落ち着いていられる気分は実に素晴らしい。これが症状の好転を助けるのは間違いない……」
病院脱出はカズンズの「笑い療法」の効果をさらに高めることとなった。
彼は好奇心と探究心の人でもあった。膠原病の診断基準に「血沈」がある。これは「血液沈降速度」の略。つまり「試験管にとった血液中の赤血球が何ミリ下がる(沈降する)か」を測定するものだ。膠原病では、この「血沈」が通常より早く沈降する。そこでカズンズは、自分の血液の沈降速度を測ってみることにした。
「笑いの療法」つまり滑稽な小噺を聴いて笑った前と後での「血沈」の変化を観察したのだ。
その結果「……笑いの後では、いつも少なくとも5ポイント改善した。この数字自体は大きくはないが、改善は持続的であり、累積的だった」と後に述べている。彼は“不治の病”が癒えていく手応えを得たのだろう。
もう一つ――。彼が「笑い療法」とともに採用したのがビタミンCを大量にとる栄養療法。「笑い」が心の栄養なら「ビタミン」は体の栄養……と彼は実感していたようだ。
最初は一日10グラムを3~4時間かけて点滴注射した。最終的には25グラムものビタミンCを投与した。「これは大きな博打だ」。八日目、手の親指から痛みが消えた。血沈も急速に正常値に戻っていった。後にリウマチ関節炎はビタミンCが低水準となるので「大量摂取の必要がある」ことが判明。彼は博打に勝った。症状は急速に回復していった。
“奇跡”は徐々に姿を現してきた。不治の病の影は次第に消えてゆき、代わりに健康で溌剌とした身体が復活してきた。500分の1の賭けに勝ったのだ。
腹の底から笑う――前向きの生き方が、こうして医師も見放した難病を打ち負かしたのだ。
「“生きよう”とする気持ちはクスリのように体に『効果』をもたらす」と彼は後に述べている。
彼は、自らの生命を救った「笑い」の持つ奇妙な力に目覚めた。
本来ジャーナリストの彼は、自らの「治癒の体験記録」を克明に論文にまとめた。
それは1976年、全米でもっとも権威ある医学専門雑誌『ニューイングランド医学誌』に掲載され、大反響を巻き起こすのだ。
“奇跡”の連鎖は続く。この論文に対して世界十数か国の多くの医師たちから反響の嵐が押し寄せて来た。何しろ300通を超える手紙が彼のもとに届いたのだ。
そして……この論文を高く評価したカルフォルニア大学ロサンゼルス校はカズンズを医学部教授として招聘した。彼が専攻した研究分野は「心と体」の関係を極める精神免疫学。一介の編集者だった彼は、医学者としての新たな道を歩き始める。
なにしろ、それまでの近代西洋医学は人体を唯物論的に見て、具合の悪くなった臓器や組織を治療あるいは除去すればいい……といった考えが主流だった。
まるで自動車修理みたいに人体を考えていた。
そこに「笑うことで病気が治る」という実践体験と具体理論をもたらしたノーマン・カズンズの提唱は、まさにコペルニクス的転換。それは天動説に対するガリレオの地動説の登場に等しいものだった。
いまや、「笑いの生理学」を否定する医学者はいない。
「笑い」の奇跡……その驚愕の知見が世界中で臨床的にも、解剖学的にも、生化学的にも、証明されている。それは、つまりところ「生命を癒す」ものは、究極的に“心”である……という真理に到達するのだ。
「愛と、笑いと、希望と、信頼と、生への意欲……それらを尊重し、実践しなければならない……と信じて来た」(ノーマン・カズンズ)
ノーマン・カズンズのパイニア的な業績は、いまや「精神免疫学」という最先端医学に引き継がれている。カズンズ自身、UCLA医学部で、その研究組織を発足させている。
その著書『ヘッド・ファースト――希望の生命学』は「笑いと健康」に関する理論的バイブルと言える。彼は医学者としての他、平和運動の実践家としても知られている。「笑い」を愛する人は「平和」を愛するのだ。
「たとえ前進がまったく絶望的と思われる時でも、人間の心身の再生能力を決して過小評価してはならない」(ノーマン・カズンズ)
パッチ・アダムス――ハリウッド映画化され全世界が笑い、泣いた
パッチ・アダムスはカズンズと同様、彼は「笑いの治療」を独自の感性で実践し、広めた医者である。
その半生はアカデミー賞俳優ロビン・ウィリアムズ主演で映画化された。
「創膏(パッチ)で傷を治す」という愛称でパッチ・アダムスと慕われた実在の人物。1998年ユニバーサル・ピクチャー作品。映画としても秀逸で深い感動の余韻を残す。
ユーモアとペーソス溢れる人物像を、ウイルアムズは見事に演じきった。人生の絶望の淵に立たされながら、病に沈む患者たちを笑わせ、微笑ませることで、自らの人生をも救った一人の医者……。
9歳で父をなした彼は、各地を流転……生きる道を失い、自殺衝動に懊悩し、ついに自ら選んだ“家(ホーム)”は精神病院だった。
1969年。「僕と外の世界にはミゾがある……」。同室は、リスの幻影に怯える患者ルディ。アダムスは一緒に大騒ぎすることでルディの狂喜と共感を得る。湧き出す天性のジョーク。病院の患者仲間たちは爆笑により、その顔には輝きが戻ってくる。
「そうだ……」。アダムスは生きる光明を見出した。「心を病む人々を助けたい」。
……2年後、彼は念願のヴァージニア医科大学に入学。年を食った医学生にもかかわらず、もちまえのユーモア精神と実行力で、学生仲間たちの共感を得て行く。その中に美人女子医学生カリンもいた。彼は患者をベッド番号で呼ぶ非人間的な医療現場に反発、小児ガン病棟にしのびこみ、浣腸の赤いゴム球を鼻に付けて、道化のしぐさで子供たちを笑わせる。ベッドに横たわるその瞳に輝きが戻る。起き上がり大笑いしながら、ベッドで飛び跳ねる。
彼は学友に語る。
「人間が相手である以上、人の中に飛び込む必要がある。海に飛び込むように……」
「ルールに従いたまえ!」。彼に反発、憎悪すら抱くのが敵役の学部長だ。
「“夢”は医者をつくらない。私が医者をつくるのだ」
しかし、アダムスは諦めない。その自由奔放さに呆れていたカリンも、アダムスが試験でトップレベルの成績であったことに驚く、そして、二人は恋に落ちる。しかし、突然の悲劇が……。美しい彼女は、精神を病んだ一人の患者に殺されたのだ。失意のどん底で、医者への夢を諦めようとするアダムスを待っていたのは、病床で救いを求める人々だった。
山中に“癒し小屋”を作り仲間と救済に奔走するアダムス。その彼に対して、大学側は除籍処分を決定。退学処分に異議を申し立てたアダムスと大学側との対決の場は、まさに映画のクライマックス。
彼は審判の席で、檀上の大学側理事たちに問いかける。
「……人を助けるのが医者では? いつからお偉い職業に? “先生、どうぞこちらへ”“上席にお座り下さい”“さすがオナラも臭くない!”」。無表情な理事たち。
「昔の医者は病人を助けてくれる――物知りで頼れる友達でした」「苦しみ助けを求める者に家のドアを開き、勇気づけ、熱が下がるように冷たい布を当てる」。彼の熱弁は続く。
「病気と戦う場での一番の敵は“無関心”です。教室では“医者は患者と距離を置くように”と……でも、人間同士が接触すれば必ず影響を与え合う。医者と患者には許されない? そういう教えは、間違いです。死を遠ざけるのではなく、生を高めるのが医者の務め。病気が相手なら負けることもある。人間が相手なら結果がどうであれ医者が勝つのです」
アダムスは2回教室を埋め尽くした聴衆の医学生たちを振り仰ぐ。
「生命の奇跡に無感動にならぬように! 人体の驚くべき働きに畏敬の念を! 重要なのはそれだ。成績など! 成績偏重が目標を歪め……」
学長の「アダムス君……!」の静止を振り切り「医者になる前に人間に!」。
静まり返って聴き入る学生たちの顔、顔、顔……。
「他人や友達、電話の相手……人と対話する能力を!」
後方に立ち並ぶ看護師たちの眼差し。
「後ろの素晴らしい人々とも友達に。毎日、患者の血と尿にまみれている看護婦は得難い教師だ。ハートが死んでいない教師を手本に。思いやりを持って……」。彼は檀上に向き直る。
「私は心から医者になりたいのです。私はすべてを失いましたが、同時にすべてを得ました。病院の患者やスタッフと時を過ごして……共に笑い、共に泣いた。生涯そう生きたい。神が証人です。今日の結論がどうであれ、私はなってみせます。世界一と呼ばれる医者に……。あなた方は卒業を阻み、私から免許を白衣を奪える。でも、学ぼうとする魂を抑え込むことはできません」
教授陣の沈黙。そこに駆け付け来た子供たち。なんと彼が勇気づけた小児ガン病棟の子供たち全員が後列に勢ぞろい。そして一斉にあの赤い鼻をくっつけ精一杯、笑顔を浮かべる。
感極まったアダムスの泣き笑い……。
休憩後――。大学側の下した結論は「……君はまた、我々医者を批判した。“医学界の伝統に固執しすぎる”と。しかし……生命の質を高めようとする君の努力に何ら過ちはない。君は既存の医療と理念えおより良いものにしようとしている。患者への思いにも脱帽する。成績もクラスのトップにある。卒業を妨げねばならない理由は何もない」。
会場を埋め尽くした人々に、会心の安堵の笑みが広がる。
「眉をひそめる言動がままあるにせよ……君の掲げるたいまつが、野火のように医学界に広まることを望みたい」
全員、総立ち拍手。それは、いつまでも鳴りやまない。
そして、卒業式――。「君らは、いまや医師なのだ!」と学長祝辞。次々に名前を呼ばれて登壇する卒業生たち。「……ドクター・パッチ・アダムス」。「いいぞ! パッチ!」会場から声。角帽に黒いガウンの正装で学部長から証書を受け取る。「体制に順応したようだな」と皮肉られ「ええ、もちろん!」。そしてアダムスが会場にお尻を向けて一礼すると、なんとガウンの下素っ裸。会場は驚きと苦笑と爆笑、やんやの拍手の嵐……。
してやったりのアダムスの笑顔。
「――以後、12年間、パッチは町医者として、無料で1万5000人を超える患者の治療に当たった。現在はウェスト・ヴァージニアに“お元気でクリニック”を建設中。パッチに共鳴する1000人以上の医師が、参加を申し出ている――」
「笑い」と「感謝」の心は遺伝子も変える!
「笑い」は遺伝子も変える。
それを見事に立証した科学者がいる。日本の遺伝子研究の第一人者である筑波大学名誉教授の村上和雄博士である。その大胆な仮説は1997年に発表された。「精神的な因子が遺伝子スイッチのオンとオフに関係する」というもの。つまり「ポジティブ(肯定的)な因子は、良い遺伝子のスイッチをオンにし、ネガティブ(否定的)な因子は、良い遺伝子のスイッチをオフにする」という仮説である。
遺伝子には、約30億個もの情報が入ってる。しかし、これらは、すべて働いているわけではない。ピアノ鍵盤のようなもので、「叩く」ことでようやく「音」つまり「情報」が出るのだ。「遺伝子はもって生まれたものだが、後天的な要因でオン/オフすることがある。そのオン/オフには三つの要因があり、第一が物理的要因、第二が化学的要因、そして第三が精神的な要因が関係している。この心や思いなどの精神的な要因が今注目されている」(『生きている。それだけで素晴らしい 遺伝子が教える「生命」の秘密』)
私たち東洋人は、この考えはスッと腑に落ちる。
「心身一如――」つまり、「身体と心は一つの如し」。これは東洋医学の根幹であり、東洋思想の要諦だからだ。
「病気」という文字が、その全てを物語っている。つまり、「気」が「病む」から「病気」になるのである。
しかし、西洋思想もかつて古代においては「心身一如」つまり東洋思想と同じであった、と思える。なぜなら、英語で病気を“disease”と綴るからだ。これは“dis(~でない)”+“ease(安息)”という意味だからだ。
つまり、病気とは「心が安らかでない」……と喝破しており、それを言語に残してきたのだ。これは、古代では東洋も西洋も「ここ安らかならざるは、病に通じる」という真実を判っていたのである。
「絶望するのではなく、前向きに治療に取り組むほうがいい結果が出る」(対談相手の安倍博士)
「“願えば叶う”というのは、とても宗教的な言い方ですが、きちんと科学的にもデータが取られていることです。強く願うことは、その願いに関する遺伝子がオンになる……ことだと思うのです……」(村上博士)
気持ちを「若く」保っていれば、いつまでも若くいられる。逆に「心が老ける」と「顔も老ける」ことは、誰でも思い当たるだろう。医学分野で催眠療法あるいは暗示療法といわれる分野がある。いわゆるサイコオンコロジー(心理療法)。これらも、「心を変化」させることで「遺伝子を変化」させよう――とするものだ。村上・遺伝子論により、これらの正当性も裏付けられるのだ。
村上博士も強調する。
「……潜在意識の作用によってみちびきだされた力が潜在能力です。潜在能力は、奇跡的なことを容易に起こしてしまうような大きなものです。潜在能力が発揮されれば、全身に広がったガンが消えてしまっても不思議はないと思います」
この潜在能力を引き出す方法は、二つある……という。
一つは「心の持ち方です。あることの実現を願ってひたすら心に念じると、それが潜在意識に刻印されて、自然にその目標に近づく行動をとるようになります」。もう一つが「外界の変化。火事場の馬鹿力のようなもので、環境変化に対して、瞬間的に適応します」。「潜在意識に働きかけることは、実は、遺伝子に働きかけている可能性があります」。
「……獲得形質も、遺伝するのではないか?」
まず近代遺伝子学は、チャールズ・ダーウィンの進化論に基づく。
その基本理念は「自然淘汰」理論である。別名「適者生存」理論。つまりは「弱肉強食」「優勝劣敗」……。20世紀に遺伝子が発見され、突然変異などで生まれた「環境適応」種が他の種を打ち負かして「適者生存」してきた……という「進化論」総合説となっている。しかしこれだけでは、地球上のあまりに多様な生物相を説明できない。
たとえば、昆虫などの擬態――。枯葉にそっくりの蛾や、枯れ枝にしか見えないナナフシ……などなど。これら擬態生物が、偶然の突然変異で生まれた……などということは有り得ない。
かれらは天敵の襲来に必死で身を潜め、本能的に見つからないため、周囲の環境に同化することを“念じた”はずだ。一念天に通ず……その“思い”は次第に外形や色を周囲と同化させて行った。つまり生存本能は、遺伝子情報すら変えて、この後天的な獲得形質は、子孫に遺伝的に継承されて行ったはずだ。
総合的「進化論」に基づく現代生物学は、これら獲得形質の遺伝は否定している。
しかし、パッカードなど一部の学者たちは「……個体が外界の影響または器官の用不用で後天的に獲得した形質で……ポジティブな生存本能は遺伝子をオンにする……ことが立証された。例えば枯れ葉の上を棲家とする蛾は、同様に羽は緑となる。子孫も同様に、生存することを本能が念じるために生殖細胞の遺伝子も同様に変化する。こうして獲得形質は「生きよう」と必死で念ずるものは、昆虫であろうが人間であろうが「生かす」のだ。
これら「生命」の奇跡と神秘は「波動医学」で解明される。この波動医学の根幹にあるのが、量子力学だ。意識もミクロの量子派であり、その波動エネルギーがDNA構造を変えるのだ。まさに「念ずれば通ず」。
この理論を裏付けるのが遺伝子の変異と修復である。遺伝子構造は、未来永劫……固定したものではなく、常に微細な異変と修復を繰り返している。
はやく言えば“揺れ動いている”。ゆえに、心で「生」を望めば「生存」の方向に変異、修復される。「死」を望めば「死滅」の方向で変異・修復されて行く。
「人は思った通りのものになる」「イメージは実現する」……という成功法則は、遺伝子理論的にも正しいと言えよう。
現代医学の最新分野サイコオンコロジーも、この遺伝子のマジックを極めようとするものだ。そこで出てくる結論は、まさに東洋医学が教えて来た「色心一如」の現実である。さらに村上博士の唱えるポジティブ心的因子は、生命力を賦活する……という真実なのだ。
村上博士が唱えるポジティブな因子とは「……喜び、楽しみ、愛情、信念、祈り、感謝……などで、ネガティブな因子とは、苦しい、辛い、ねたみ、怒り……など」と実に分かりやすい。
「……誰もが、生きているそのことが素晴らしいのです。それにきづいた時に、体の奥からこみ上げくる幸福感を味わうことができます。幸福の尺度があるとすれば、どれだけ心が満たされているかによります。また、幸福は生きている時間の長さでは計ることができないものです。必要な遺伝子を必要な時にオンにして、快活に、そしてゆるりと生きる。これが生き方の極意なのでしょう」
アメリカの病院で行われた“祈り”の治療効果の研究。被験者393人もの心臓病の患者さんたち。かれらをその快癒を「祈られた」患者さんグループと、「祈られなかった」グループに分けて、その後の経過を観察した。その結果、明らかに「祈られた」グループは人口呼吸器や抗生物質、透析などの治療を受ける率が少なくなっていた。
「……祈りには治療効果があるんです。しかも、この病院は西海岸にあるのですが、遠く離れた東海岸からの祈りも、病院の近くで祈られたグループと同じような効果があった……というのが面白い」「ニューヨークからロサンゼルスへ向けて念じるような遠い距離の祈りですよ」(村上博士)
近代医学を盲信する学者たちからは冷笑嘲笑が沸きそうだが、博士は「この実験方法には批判もありますが、私は、こうした結果はあっていいと思っています」と淡々としたもの……。
佐賀市でガンの代替療法を実践する矢山クリニック院長の矢山利彦医師は、気功の達人としても知られる。
彼は遠隔気功も行う。それは「距離にはまったく関係ない」という。「相手の名前や写真などがあると、気功エネルギーのフォーカスが合いやすい」という。
遠隔気功は、医学的な実証試験も行われており、不思議なことに、「気」を送ったその瞬間に、遠く離れた被験者の血圧などの生理変化が、まぎれもなく観察されているのだ。
気功によるエネルギーの送信・受信の現象は、さまざまな実験で立証されており、それは疑う余地はない。常人の祈りも、気功師による送「気」も、程度の差はあれ「治したい」という念を送っていることに、違いはない。
「……クリーブランドに留学していた頃、心筋梗塞の患者さんを、同じように『祈られる』グループと『祈られない』グループに分けた研究を行っている、という話を聞きました。『祈られた』人は、早く退院していくんですね。まだ論文にはなっていませんでしたが、私には大変衝撃でした」「でも、念じることや祈りの効果は、面白いことに、雑念があったら出ないんですね。この人を助けて自分がお金を儲けようとか、そういう不純な気持ちがあるとダメですね」(阿部博士)
英国ロンドン大アイゼンク名誉教授の研究は衝撃的だ。約1300人を15年間追跡調査したところ、「自律性のない引きこもる」性格の群は、約46%ガンで死亡していた。一方「自律性がある」タイプは、なんと0.6%しかガンで死んでいなかった! セルフコントロール能力のあるなしで、ガン死亡率に77倍もの大差が出たのだ。「心」の持ちようで、これ程の落差……!
アイゼンク報告には、おまけがある。「自律性」のないタイプの人々に「行動療法」を行い「自律性」を持つように「性格」を変化させたところ、15年後のガン死亡率は10分の1以下に激減。「これは、『性格』と、ガン死亡率の因果関係をしめした重要な研究である」(東京新聞1994年11月3日)
英国学者グリア―の研究。ガン患者の性格を4タイプに分類して、十年間、追跡調査して生存率を比較した。
それは――A:闘争心で対応した人。B:病気を拒否した人。C:冷静に受容した人。D:絶望感に陥った人。
もっとも生存率が高かったのは、A:「闘争心」でガンに立ち向かった人たち。A:「闘争心タイプ」は、「D:絶望タイプ」の約5倍という驚異の生存率を示した。
さらに米国のスピーゲルは、86人のガン患者を「1年間、心理療法をした」群と、「何もしなかった」群とに分類して10年間追跡調査。その結果「心理療法をした群の方が約2倍も長生きしていた」。
日本の川村則行博士の研究では、「温和で自己主張が弱く、過度に協調的で、忍耐強く調和を重んじ、葛藤を退け従順で、防衛的……」この性格が「最もガンにかかりやすい」。また「自己感情を理解しつつ、その感情を抑え込み、強い感情表現を極端にさける」人もガンになりやすい。また「ストレスにうまく対処できず、絶望感や無力感が強い人」も同じ。
「手術や化学療法を受けないで(ガンが自然消失して)ガンから回復した患者は、すべて自律性が高かったとの報告があり、アイゼンクの研究とも一致しています」(川村博士)
以上のようなことを考えると、まさに「医学」とは「心理学」さらに「哲学」「宗教学」とも重なっている。これらを排斥無視した現在のガン治療は、根本から間違っている。
「宇宙の全存在は『波動』である。いかなる『物質』も存在しない」(マックス・プランク)
それは人間も同じ。肉体も意識も、すべて「波動」である。その本質は「量子波エネルギー」である。つまり、私たちの実在は、波動エネルギーなのです。仏教的に言えば、この宇宙という「法界」は、「諸行無常」であり、すべて「空」なのです。「空」とは智慧であり、心の働きです。
たとえば、存在が実証された量子の一つニュートリノは、光速を超えることが科学的に証明されています。
量子力学のメタテレポーテーション理論によれば、量子は瞬時に時空を超えて“情報”を他の量子に伝達する(量子超弦理論)。
「祈り」「感謝」「引き寄せ」「第六感」さらには「超能力」「臨死体験」「死後の生命」「転生」などの謎も、量子力学により解明されようとしています。
<参考文献リンク>
『笑いの免疫学:笑うひとは2倍生きる……! 』 船瀬 俊介
『笑いと治癒力』 ノーマン…カズンズ
映画『パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー』
『生きている。それだけで素晴らしい: 遺伝子が教える「生命」の秘密』 村上和雄、阿部博幸